なれそめ話(69fesあわせ) |
前回までのあらすじ。 アニメで重力室でベジータにビーム撃ってくる浮遊体って、最初ベジータぶち壊してたけど、後になったら停止ボタン押してたよね。 「‥‥ータ‥‥、起き‥‥‥‥ジータ、目を‥‥」 ‥‥誰かが自分を呼んでいる。 眠っていたのだろう、ふぅっ、と意識が戻る、あの感覚だ。 自分を呼んでいるのが、あの女だと理解した。 顔に触れている手が、あの女のものだと理解した。 ‥‥そういえば、続きをする、なんて言ってたか。 手を伸ばすと、女の体に触れた。 ごわごわした、無骨な生地の服なんぞ着ていやがる。 夕べは、柔らかい肌に直接触れられたのに、こんな作業服みたいなものを‥‥。 作業服! ベジータは跳ね起きた。 そして瞬時に、我が身に何が起こったのか把握した。 自分は、フライスフィアの攻撃をもろに喰らって意識を失い、そしてブルマに揺り起こされていたのだった。 「‥‥うわああああん、良かったあああ、ベジータ、死んじゃったかと思ったあああああああ」 ベジータが目を覚ましたことに安堵し、ブルマはぼろぼろと泣きじゃくった。 「誰が」 死ぬか、と言いかけて口を閉じた。 この女に殺されかけた。それは事実だった。 ベジータは、緊急停止させられ床に転がっているフライスフィアに視線をやる。 「ああ、スフィアちゃんね、凄かったでしょ?」 先ほどまでわんわん泣いていたはずが、瞬時に不適な笑みになった。 「あんたの動きを分析したのよ。動きがワンパターンなんだもん、予測していた位置にドンピシャよ。あとね、スフィア砲の出力も調整してね、いちどに全放出しちゃうと最充填に時間がかかるじゃない? あんたが反撃する直前に80%にさせたのよ、そしたら無駄撃ちしたように見せかけても、まだ20%残してるから即反撃できるでしょう? 3、4台で同時攻撃にさせたら十分な威力になるわ。フェイントよ、フェイント。それから‥‥」 べらべらと嬉しそうに語るブルマを見て、ベジータは背筋が凍った。 たった一晩で、この女はフライスフィアを、自分を殺せるほどの威力を持つ兵器に作り替えたのだ。 そんな馬鹿なことがあるか。 地球人ごときに、俺が殺されるかけるだと? ――だが、ブルマの策にまんまと嵌った自分がいる。 ブルマの作った装置は、鍛え上げたはずのベジータを失神させるほどのダメージを与えることができた。ブルマに殺意があり、ベジータが気を失っていたままだったら――容易に殺すことはできただろう。 この、か細い女が。自分の上で狂おしく悶えながら喘いでいたこの女が。 自分を殺す能力を持っている。 女の情夫が出て行った理由が、ベジータにはなんとなく分かった。 あの男も、来るべき未来の人造人間と戦うために修行中の身だった。 敵は、人造人間のはずだった。 それが、目の前の恋人がそれよりも恐ろしい存在であることに、きっとあの男も気づいたのだろう。 サイヤ人を弄び、いいように利用したフリーザ。 地球というぬるま湯で育ちながら、伝説の超サイヤ人となったカカロット。 純粋な血を持たずに超サイヤ人となりえた未来の少年。 ベジータは奴らに蹴落とされ、己の弱さを突きつけられ続けている。 そこへ、するりと入り込み、ベジータの順位をまたひとつ落とした女。 きらきらと笑いながら、己の強さに絶対の自信があり、そして実際に叩き伏せてきた女。 どいつもこいつも。 簡単に俺を越えやがる。 アタマにくるぜ‥‥。 「‥‥もしかして、ベジータ、怒って、る‥‥?」 ブルマが不安そうに顔を覗き込んできた。 「なぜ」 「顔が怖い」 「フン」 ベジータは立ち上がり、再びこの重力室を起動させようと、操作パネルへ向かった。 「続ける。きさまは出て行け」 「続ける、って‥‥ダメよ、ベジータ、死んじゃうわ」 「結構な自信だな!」 無自覚な、男をナメきった発言に、今度はベジータは間違いなく怒った。その剣幕にブルマはビクッと体をすくませる。 「俺をバカにするのもたいがいにしろ」 「バカになんて」 「してるだろう? きさまは自分の作ったスフィアで、俺が死ぬと思ってんだろう?」 「だって‥‥」 「ああ、褒めてやるよ! きさまは俺よりも凄い、きさまの科学力で俺は死ぬ。‥‥だが、殺したくはない、ってことか」 「当たり前じゃないの!」 「それで? いつでも殺せる力を持っていて、でも殺すのはイヤだ、か。俺を生かすも殺すも、お前の自由なんだな」 ベジータは笑った。その笑い方に、ブルマはぞっとした。 ――そうだ、どいつもこいつも。 俺をバカにしやがる。 故郷の星を亡くした哀れな王子として。 とうに戦う意義も見いだせない過去の敵として。 戦乱の未来から縋る価値もない者として。 己の性欲を満たすのに都合のいい男として。 「――俺を犯すのは楽しかったか?」 「‥‥何を言ってるの?」 「下僕を一人、増やしたつもりか、女王様」 「何を言ってるのよ!」 「俺は、きさまらのオモチャじゃない」 ベジータから感情が消えた気がした。 あれほど激昂していたのに、急に小さく、冷たく、彼は呟いた。 ‥‥きさま、ら? ブルマは問い返そうとした、が、彼がもう、こちらを完全に拒んでいるのが分かった。 何も聞くつもりはない、そんな背中をこちらに向けているだ。 「失せろ」 ベジータは構わず、加重力スイッチを入れた。室内にヴウン‥‥と音がして、装置が起動し始めた。 ブルマは小さく悲鳴を上げると、這うようにそこを逃げ出した。室内の重力を示す表示板の数値がぐんぐん上昇しているのが見えて青ざめた。重くなった体で、苦しくなった呼吸で何とか扉に辿り着き、通路に転がり出た。 ふぅ、と安堵のため息をついたのもつかの間、爆音が轟いて建物全体が揺らいだ。 重力室が崩壊し、その衝撃の勢いで反対側の壁に打ち付けられた。 崩れた天井、粉々に砕かれた外壁、床に転がる原型を留めていないスフィア達。その真ん中に、ベジータが立っていた。 がらんどうになった重力室。 ベジータは、こちらに一瞥もくれず、どこかへ飛んでいった。 さすがの騒ぎに、両親も起き出してきた。修繕マシーンや掃除ロボットたちもぞくぞく集まってくる。 「いったい、何事かね?」 「どうしたの、ブルマさん?」 床にへたりこんだブルマは、泣くことすら忘れて、呆然と答えた。 「‥‥ベジータを、怒らせちゃった‥‥」 ベジータが怒ったのをブルマが観たのは、初めてかもしれない。 ナメック星で最初に見た時、嬉々として戦っていた。 ドラゴンボールの力で一緒に地球に戻った時、物静かに後ろに立っていた。 それから、一緒に生活を始めて。孫くんが帰ってくるまで、彼は常に大人しくしていた。地球人達との関係を殊更に深めようとはせず、目立たぬように、ゆくゆくは元居た宇宙に戻るために毎日を過ごしていた。 ベジータの態度が変わったのは、未来の少年と出会ってからだ。 新たな敵がこの地球に現れると知って、彼はここに残ることを決めた。 それからは、要求をすることも増えた。不満を口に出す事も増えた。『いつも仏頂面でオレ様で我が儘勝手な王子様』になっていった。 ――この家に、慣れてきたんだわ。 そう思っていた。 ベジータも、‥‥それからヤムチャに対してもそうだったのだろう。 私たちは家族になりつつある。 そう思っていた。 父さんが拾ってくる捨て犬や捨て猫や捨て恐竜たちが、いつの間にか家族になるみたいに。 つづく。 ←戻る つづく→ |
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