日常話(1) その12
 長い長い夜が明けて、ようやっとカリン塔の上空、神様の宮殿に一人の男が姿を現した。
「いろいろと、お世話になりました」
 顔に傷のある男は、あの世から自分を導いてくれた目の前の神に礼儀正しく頭を下げた。
「‥‥その、もしかしたら、界王様から聞き及んでおるかもしれぬが」
「ベジータのことですか」
「うむ」
 ヤムチャはこれまでの顛末を、ざっと界王から聞かされていた。ブルマの大胆さに驚きはしたが、そういえばかつては自分も同じように西の都に誘われたな、と苦笑した。
 界王星で修行を重ねるうち、襲来者の2人のサイヤ人に対する恨みは薄れていた。全ては、己の力不足が招いたことだ。
 界王星での修行は有意義だった。とうに限界まで極めていたつもりだったが、まだまだ甘かった。肉体的にも精神的にも、いくらでも伸びていくのが実感出来た。むしろ、もっと修行を続けたかった――などというと、ブルマに怒られるな。
 宮殿の端から、地上を見下ろす。西の都も、もう一日が始まっている。
「ありがとうございました」
 まっすぐ、西の都のカプセルコーポレーションを目指す。そこに待ってくれている人がいるから。

「ヤムチャさま〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 真っ先に(文字通り)飛びついてきたのはプーアルだった。
 そして意外にも、ブルマもまた同じように飛びついてきたのだった。
「ヤムチャ! 会いたかったわ!!」
 かつてこれほど、熱烈に抱擁されたことがあっただろうか。半ば困惑しながら、ヤムチャはブルマの体を抱きしめた。
「お帰りなさい、ヤムチャちゃん。お疲れでしょう」
「いやいや、よく帰ってきたね」
 家族同然の博士と夫人にも出迎えられた。
 ナメック星人たちも皆、顔を見せた。初めて見るピッコロ以外のナメック星人の団体に少々度肝を抜かれたが、温和な人種であることはすぐに分かり、全員と握手ができた。
 しかし。
 ヤムチャはごくり、と唾を飲む。
「‥‥ベジータは? いるんだろ」
「ベジータ? 知らないわ」
 ブルマの返事はそっけない。
「ベジータちゃんは朝から、日課の修行に出てるのよ。お夕食には戻ってきますわよ」
 夫人は、いつものことだと説明した。
 ああ、この家は何も変わらない。それがヤムチャを心から安心させた。
 この家はいつ帰ってきても変わらない。
 何も変わらない、平和な日常が待っている。

 果てさて、これからどうなっていくのだろうか。
 物語はつづく。



――了――
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