未来編オムニバス  悟空が死ぬとこ
 チチからの悲痛な電話に、ブルマは青ざめた。
『――村のお医者じゃ、手がつけられねぇって。お願いだ、ブルマさん。助けてくれ』
 悟空が唐突に苦しみだして呼吸を乱し、そのまま倒れてしまったという。
 この宇宙で最強の肉体を持つ彼をそれほど苦しめるとは、普通の病気ではない。あのエリアでは緊急車両をとばしても、何時間かかるか。連絡を受けたブルマは己のコネクションを総動員し、西の都いちばんの病院の滅菌室での診察枠を確保して、パオズ山から悟空を抱えて飛んできた悟飯を受け入れた。
 原因不明の奇病。診察をした医師は、首をかしげた。
「見たこともないウイルスです。これが血液中に異常に増殖して‥‥?」
 病院は騒然となり、パオズ山にも防疫班が走った。幸い、どこも汚染はなく、悟空に接触した人間の誰も感染はしていなかった。
 悟空の症状はどんどん悪化する。医師があらゆる手段を講じるが、全く効果がない。
「ぼく、カリン様のところへ行って、仙豆を貰ってきます!」
 飛び出そうとした悟飯を、悟空が止めた。
「‥‥その必要は、‥‥ねぇ」
 呼吸をするのも苦しいだろうに、悟空は、力を振り絞って声を出した。
「寿命‥‥ってやつだ、‥‥これ。しょうがねぇ‥‥や」
「いやだよ、お父さん。そんなこと言わないでよ!」
「悟空さ! 諦めねぇでけれ!! 悟空さみたいな丈夫な男はいねぇんだから」
 悟空にすがりつく悟飯とチチ。
 ブルマはもちろん、そこに入り込むことは出来ず、病室のすみっこで突っ立っているしか出来なかった。
「‥‥悟飯、知ってっか‥‥? あの世には、まだ‥‥強ぇ‥‥やつが、‥‥いっぱい、いて‥‥」
 声がどんどん小さくなる。チチは狂ったように悟空の手を掴み、腕をさする。心拍数を表すアラーム音は、徐々に間隔が長くなる。
「ああ‥‥、界王様のとこで‥‥また、修行して‥‥そういや、閻魔、大王、の、おっちゃんとも、手合わせを‥‥」
「お父さん? お父さん!!」
「悟空さぁああ!!」
 全ての機械の音が静かになった。医師は黙って悟空の体のあちこちを触り、最後に時計を確認した。

 ――ああ、あたし達は見捨てられたのだ。
 
 妻も子も、彼を引き留めることは出来なかった。
 彼は行ってしまった。
 『より強く』を求める彼にとって、この世のあたし達は、何の未練でもない。

 あたし達は、見捨てられた。
 
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